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東京高等裁判所 昭和24年(新を)275号 判決

控訴人 小島守 櫻井重一

弁護人 福田覚太郎

検察官 鈴木正二関與

主文

原判決はこれを破棄する。

本件を東京地方裁判所に差戻す。

理由

弁護人福田覚太郎の控訴趣意は同人作成名義の控訴趣意書と題する書面記載の通りである(但し論旨第二点以外の論旨は省略する)。これに対し当裁判所は次の通り判断する。

論旨第二点について、

証拠調の範囲を変更する場合には裁判所は檢察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かねばならぬことは刑事訴訟法第二百九十七條第二項に明定する所である。従つて一旦証拠調の決定をした後で之を取消す場合にも当事者の意見を聴くべきものである。本件訴訟記録を調査するに原裁判所は昭和二十四年三月二十八日沖高ツヨを証人として取調ぶべき旨決定を宣し、次いで同年四月一日前きに決定した右証人に対する証拠決定を取消す旨宣告したことは各前記日附の各原審公判調書の記載に徴し明らかである。而して原裁判所が前掲取消決定の際檢察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いた旨の記載は該公判調書に記載がないからこれらの者の意見は聴かなかつたものと断ずる外はない。果して然らば原裁判所の右証拠決定の取消決定は違法であり該違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破棄を免かれない。弁護人の論旨第二点は畢竟これと同趣旨に帰するから論旨理由あるものである。よつて爾余の論旨に対する判断はこれを省略する。

よつて刑事訴訟法第三百九十七條、第三百八十條、第四百條に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

控訴趣意

第二点原審判決は審理を盡さず訴訟手続に法令の違反があつて、其の違反が判決に影響を及ぼすの不法がある。原審に於ては弁護人の申請に係る証人沖高ツヨ、高橋和雄を申請して許可された。沖高証人は被害者と被告人等が共に飲酒した露店の女主人である。本件犯行は証人堀光次郎の供述の如く街路上の出来事でなく共に飲酒酩酊してからの出来事で時計喝取の経緯は弁護人申請の沖高ツヨの面前で行われたもので之が喝取となるや、何人が時計を授受したるや実に重大な証人である。然るに原審はこの証人喚問を許可しながら一回の不出頭によつて直ちに証人訊問を取消した。刑事訴訟法第百九十條第二号は証拠調並びにその却下の決定は相手方弁護人の意見を聴いて決定を爲すべきことを規定している。証人を喚問すべき許可を取消すべき場合に於ては弁護人の意見を徴すべきことを要するものであつて、これをなさずして取消すは不法であることは勿論である(記録第百五十四頁参照)。殊に被告人の一生の浮沈の有罪無罪を宣すべき重大なる瀬戸際に於て第三者たる証人の僅々一回の不出頭に依つて審理を盡くさず終結するが如きは前記の違法があるのみならず人権蹂躙であると言わねばならぬ。

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